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州太 二葉……。(哀願するやうに)どうか、お父さんのすることを赦してくれ。こんな意気地のない父親は、天下に二人とはゐまい。だが、いくら蔑まれても、憎まれても、わしは、どうすることもできんのだ。(殆ど狂はんばかりに)あゝ、誰か、今、わしを殺してくれるものはないか……。
二葉 お父さん……。そんなに生きてゐるのが苦しいの? あたしが……。あたしがゐるつていふことが、なんにもならないほど苦しいの? それぢや、いゝわ、あたし、一緒に死んであげるわ……。
州太 え? ほんとか?
二葉 ほんとよ。えゝ。あたし、決心してよ。どうしたつていふんでせう……。自分でもわからないの。死ぬなんて、いやだと思つてたのが可笑しいくらゐだわ。もう、なんともないわ。たゞ、怖いだけよ。怖いわ、死ぬの……。でも、お父さんと一緒なら、怖くないか知ら……。あそこまで行つてみませうよ。(歩き出す)
州太 怖くはない、怖いもんか。さ、しつかりお父さんにつかまつておいで……。あの崖の端まで行つたら眼をつぶりなさい。
二葉 あたし、今から眼をつぶつてゝよ。あら、よく歩けないわ。(間)まだなかなかね……。
州太 まだ
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