ておくが、山を降りたら、まつすぐに東京へ帰りなさい。決して、あのおとねのゐる家へ足を向けるんぢやないよ。あの女は、お前を、どんな方向へ引つ張つて行くかもしれない。あの女の言ふことは、取るにも足らないほど馬鹿げたことだ。しかし、あの女のすることは恐ろしいよ。恐ろしいといふ意味は、相手にきつと、心の動揺、つまり、何等かの影響を与へるといふ意味だ。あの女の何処かに、見どころがあるとすれば、わしにだけさう見えるのかもしれんが、そいつはつまり、不純なものゝ美しさだ。わしは、どういふわけか、さういふところにだけ心を惹かれたのだ。だが、お前は、お前こそ少くとも、純潔を保つてゐて貰ひたい。お前の過去は、二つ傷をもつてはゐるが、決して、それは汚れたものではない。その点、わしは、お前を信じ、また、お前のために矜りを感じてゐる。初めの男は、たゞ、お前を裏切つたのだ。二番目の男には、これは、お前といふ女がわからなかつた。何れも、お前に罪はなく、お前は、お前の心のやうに清浄無垢だ。
二葉 …………。
州太 たゞ、わしが、どうにも気がゝりなのは、お前が、その総てを、どんな男の手に委ねるかといふことだ。その男が
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