てゐる気か。
二葉 あたしが死なゝいつて云へば、お父さんだつて死にたくないとお思ひになるわよ。ねえ、さうでせう(父に取り縋り)それがほんとだわ。あたしをほうつて、そんなことなされない筈よ。あたしのことが心配でせう。(急き込んで)ねえ、心配だつて云つて頂戴……。あたし、まだ、お父さんに、いろんなことで力になつていたゞきたいのよ。ほんとよ。さういふ力なら、お父さんにあつてよ。あるどころぢやないわ。お父さんにしかない力よ、それは……。それも、大きな、大きな、強い強い力よ。
州太 駄目だよ、お前がなんと云つたつて……。仕方がない……。お前がいやなら、わしは、一人で、飛び込む……。
二葉 (はじめて気がついたやうに、恐怖に満ちた眼で噴火口の方をみる)
州太 お前を誘つたのは、わしがわるかつた。お前には、まだ、お父さんの苦しみも、よくわかるまい、それだけに、まだ、世の中といふものが、わかつてゐないのだ。一人の人間の命を、わしは決して軽く見てゐるわけではなかつた。殊に、お前にとつて尊いものを、わしが奪ふといふ法はない。わしは、わし自身の選んだ道を取ることにしよう。そこで、くれぐれもお前に云つ
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