、小諸へ帰るわ。
新井 そいつも、嘘らしいな。
とね 見てればわかるわ。また芸者になるのよ。
新井 先生と別れてかね。
とね むろんよ。さうしたら、あんた、遊びに来てくれるわね。
新井 どういふもんかな、そいつは……。
とね どうもかうもないさ。さうなれや、あたしは、誰のもんでもないんだから……。
新井 第一、そんな余裕はないですよ。月二十円の小遣を貰つてるんぢや……。
とね そこは、あたしがうまくやつたげるわよ。知らない仲ぢやなし、安心してらつしやいよ。
新井 だけど、その話は、まだ早いや……。
とね 夜露がひどいから、家ん中へはひりませうよ……。
新井 ほんとに、大丈夫なんだらうな、先生たちは……。
とね まだ、そんなこと考へてんの。御覧よ、今頃は、二人で、六里ヶ原の月でも見ながら、いゝ気持で歌を唱つてるから……。(さういひながら、奥に姿を消す)
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新井は、一つ時、思案に暮れて外に立つてゐるが、遂に、ふらふらと中へはひつて行く。
舞台しばらく空虚。
そのうちに、部屋の奥で、穏かであるが、何か云ひ争ふ声が聞え、やがて、新井が、扉を開けて
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