するから、するつて云つたゞけよ。それ以上、別に、なんでもないのよ。
新井 益々わからん、僕にや……。それで、あんたは、先生が死んで、なんともないんですか。さうして、ぢつとしてゐられるんですか。
とね だから、どうにもしようがないつて、云つてるんぢやないの。わからない人ね。
新井 悲しくも、怖ろしくもないんですか。
とね そんなこと、あんたが聞いてどうすんの。あたしがどう思つたつて、勝手ぢやないの。
新井 まあ、騙されたと思つて行つてみよう。僕は、心配な時は、心配な顔しかできない人間なんだ。笑はれたつて、かまやしない。(向うへ行きかける)
とね 誰も笑つてやしないわよ。お待ちなさいつたら、ちよつと……。
新井 ……。
とね 今の話は、みんな出鱈目よ。だつて、死にゝ行く人間が、明日の朝、峯の茶屋まで自動車を迎ひに寄越せつていふわけはないでせう。
新井 全くですね。
とね それから、二葉さんは、二三日うちに、また東京へ出ることになつてるのよ。
新井 ほんとですか。
とね がつかりしたでせう。
新井 よして下さい、さういふ変な話は……。
とね あたしも、ことによると
前へ
次へ
全75ページ中59ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング