その話が駄目になつたのよ。
新井  へえ。
とね  あゝ見えて、二葉つていふ娘も、なかなか、初心ぢやないんだから……。
新井  東京にゐればさうなるでせう。郵便局の出戻りさんだつて、実に、人を喰つてるからなあ。でも、うちのお嬢さんは、あれとはまた違ふでせう。
とね  しつかりはしてゝよ。可愛いゝところもあるわよ。
新井  僕はずつと好きだなあ(舌を出す)
とね  早く行つて、助けて来るといゝわ。今なら、物になるかも知れないわよ。
新井  戯談は兎に角、僕、ほんとに行つて来ますよ。だけど、証拠でもないと、大将にどやしつけられさうだなあ。
とね  それやさうよ。だから、あんた、探して来て御覧よ。書置なら、大概、人の目につくところに置いたるから。
新井  呆れたなあ、こいつあ……。あんた、人を舁いでるんぢやないですか。
とね  さう思ふなら、それでもいゝわよ。あたしや、なんにも、あんたに頼んでるわけぢやないんだから……。
新井  兎に角、あんたは、心配なんですか、心配ぢやないんですか。
とね  あたしが……?
新井  たしかにさういふ気がするんですか、しないんですか。
とね  さういふ気が
前へ 次へ
全75ページ中58ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング