(怒りを制して)みんな、よく聴け。わしは、決してお前たちを見殺しにはせん。
声  殺されてたまるけえ。
州太  無駄働きはさせんといふのだ。どんなことをしてゞも、報酬は払ふ。わしは裸になつても、お前たちが仕事をしたゞけの賃金は、完全に支払つてみせる。
声  そいつを早くしろ。
州太  たゞ、事業といふものは、事業が大きければ大きいほど、思惑通りには行かんものだ。そこを、みんなが辛棒して……。
声  そんな講釈は聴きたかねえ。
州太  さうか。よし。(黙つて、天井を見る)
献作  わしらも、無理なこたあ云はねえだよ。せめて、こゝ、十日分だけでもきちんとして貰へば、またあと十日ぐらゐは、待つてもえゝだ。なあ、おい(後ろを振り向く)
声  そんな腰の弱いこつちや駄目だ。

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人夫達を掻き分けて新井がはひつて来る。はひつて来たが、彼は茫然と、この有様を見守つてゐるだけである。
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州太  (新井に)わしには、もう、方法がない。お前、なんとか解決をつけてくれ。なにがどうなつてもかまはん。欲しいものは、み
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