(怒りを制して)みんな、よく聴け。わしは、決してお前たちを見殺しにはせん。
声 殺されてたまるけえ。
州太 無駄働きはさせんといふのだ。どんなことをしてゞも、報酬は払ふ。わしは裸になつても、お前たちが仕事をしたゞけの賃金は、完全に支払つてみせる。
声 そいつを早くしろ。
州太 たゞ、事業といふものは、事業が大きければ大きいほど、思惑通りには行かんものだ。そこを、みんなが辛棒して……。
声 そんな講釈は聴きたかねえ。
州太 さうか。よし。(黙つて、天井を見る)
献作 わしらも、無理なこたあ云はねえだよ。せめて、こゝ、十日分だけでもきちんとして貰へば、またあと十日ぐらゐは、待つてもえゝだ。なあ、おい(後ろを振り向く)
声 そんな腰の弱いこつちや駄目だ。
[#ここから5字下げ]
人夫達を掻き分けて新井がはひつて来る。はひつて来たが、彼は茫然と、この有様を見守つてゐるだけである。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
州太 (新井に)わしには、もう、方法がない。お前、なんとか解決をつけてくれ。なにがどうなつてもかまはん。欲しいものは、み
前へ
次へ
全75ページ中53ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング