か、もう少し待つてろつて……。
献作  待てない奴がゐますんですよ。
州太  そんな奴は使ふな。
献作  旦那、それや、ちつと乱暴でせう。
声  やれ、やれ……。
州太  誰だ、今のは……?
声  大きなお世話だ。
献作  (こつちを向き)手前たちや、黙つてろ。待てない奴は使ふなと仰つしやつたところで、わしはじめ食へねえだから、困るだよ。それも、先の見込みがありや、山林《やま》を売つてゞも、こいつらを養つとくだけど、今んところ、温泉《ゆ》は出る見込がなし、土地も売れたつて話は聞かず……。
州太  そんなことはない。現に、今日も、買ひ手がついた。
声  その金はどうした。
州太  お前たちは、なんにも知らんのだから無理もないが、現金が手にはひるまでには、相当の手続がいる。
献作  そればかりでねえだ。噂によると、日疋の旦那からはもう、資本が下りねえつてこつた。
州太  誰がそんなことを云つた。
献作  悪いか知らねえが、郵便局の時田さんから聞いたゞ。
州太  あの狸め……。

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笑声。
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州太 
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