し、お互、話相手にはなるだらう。
とね  ほんとに、お宅のお嬢さんもお気の毒ですわね。
時田  なに、あれはあれでいゝのさ。子供がゐれば、亭主に死なれても、存外平気なもんだね。たゞ東京へだけは、もう一度出てみたいつて云つてるよ。どうにもならん話だがね。

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この時、丹羽州太(五十)が、四五人の男を従へて帰つて来る。
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州太  時田さん、今度こそ掘り当てたよ。
時田  はあ。
州太  地下三尺で、もう三十八度といふ温度です。その辺の砂は、硫黄の結晶で真黄色だ。川の水からは湯気が立つて、魚があふ向けになつて浮いてるですよ。
時田  この前もさうだつたね。
州太  いや。この前のところなんか、硫黄の分量だけでも比較にならない。(男の一人に)おい、新井、こゝへ砂を出してみせろ。

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新井務(三十)は、空壜につめた砂を紙の上にひろげる。
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州太  あ、さうさう。(時計を出してみて)献作、お前、早く荷馬車の支度を
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