てあらうさ。小諸のおとねさんつて云や、わしや、子供の時から名前を聞かされてゐたよ。
とね (笑つて)さうですか。(しんみり)今の若い人には、丸つきり、かういふ苦労はわからないでせうからね。(間)旦那は、この間うちから、二葉二葉つて、それや大変なんですよ。(間)その娘さんつていふ人が、家《うち》ん中をやつてくれさへすれや、あたしは、まあ、用のないからだですもの。
時田 (わざと素気なく)そこんところは、わしどもにやわからん。
とね なんか急ぎの御用ぢやないんですか。
時田 ゐどころはわかつてるのかい。
とね 川下に、また新しく湯の出るところがみつかつたらしいんですよ。今日は、そこでせうと思ひます。
時田 今掘つてるところは駄目かね。
とね その日その日で、わからないんですよ。雲をつかむやうな話ですわ。
時田 この夏までにや、なんとかしたいもんだがなあ。
とね 二葉さんつていふのは、随分、しつかりした娘さんらしいですね。
時田 らしいね。
とね 写真でみると器量もいゝし……。
時田 うちの娘も会ひたがつてるつて、さう云つておくれよ。なにしろ、こんなところで、友達はな
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