きな赤ん坊だ、これや……(二葉の肩へ手をかける)
二葉  (肩をゆすぶり)ほうつといて頂戴よ、なんでもないんだから……。
とね  駄々をこねてるわ。
二葉  いゝのよ、なんだつて……。あたし、一人で、少し考へたいことがあるのよ。あつちへ行つて、頂戴……。
とね  そんなら、仕方がない……。このおつ母さんは落第だ……。

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諦めて、彼女は、奥へはひらうとする。が、この時、二葉は、急に背中を波うたせて、啜り泣きはじめる。
途端に、左手から、州太がはひつて来る。
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州太  (この様子を見て)なにをしてるんだ。お前たちは……。つまらん真似をするんぢやない。
とね  (心外らしく)あら、そんなことぢやないんですよ。
州太  もういゝ。今日はどういふ日だと思つてる? 土地が始めて売れた日だ。みんなで、祝ひをせえ、祝ひを……。
二葉  (袖で顔を覆ひながら、奥へ走り去らうとする)
州太  待ちなさい、二葉。何処へ行くんだ。
二葉  (州太に背を向けたまゝ立ち去る)
州太  (とねに)おい、麦酒を持つて来い。
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