二葉  え! 妻子の手前つて……?
則子  (なにくはぬ顔で)妻子つて云へば、つまり、あたしたちのことだわね。それに、さういふんですつて……。それや、薄々は……。でも、そんなこと、今更……。どつちにしたつて……兎に角、問題は……。結局、向うの……つまり、こつちの……。あゝ、なんだか、わからなくなつちやつた……。
二葉  (がつかりしたやうに)いゝわよ、もうなんにも聞かなくつたつて……。
則子  蓄音機かけてるの、新井さんか知ら……。
二葉  さうでせう。
則子  あたしも、かけて来てよくつて……あれが聴きたいのよ、そら……この前、好きだつて云つた……。(さう云ひながら、奥にはひる)

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二葉は、そのまゝ、卓子の上に突つ俯してしまふ。
とねが奥から顔を出し、この様子をみてゐる。
[#ここで字下げ終わり]

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とね  (やがて)どうしたの、二葉さん。
二葉  ……。
とね  あたしに云へないこと?
二葉  ……。
とね  あたし、だんだん、あんたのお母さんみたいな気がして来るのよ。可笑しいでせう。でも、ほんとなんだもの。大
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