[#ここから5字下げ]
二葉は手紙を読み続ける。
右手の扉が開き、新井が飛び込んで来る。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
新井  大将はまだ帰りませんか。
二葉  まだらしいわ。何か御用……?
新井  自動車一台ぢや、とても間に合ひませんね。今、一人駅で待つてるんですよ。
二葉  歩いて貰つたつていゝぢやないの、男の人なら……。
新井  印象が違ふでせう。一時間の軽便で、大概の人は、参つてますよ。
二葉  (手紙の上に眼をおとし)そんな人は、来なけれやいゝんだわ。
新井  しかし、大将も今日は有頂天ですよ。今年のうちに一人でも契約者が出来るなんて、考へてもゐなかつたでせう。なにしろ、まだ区劃割も……。
二葉  あんた、さうしてる暇に、お父さんを探してらつしやいよ。さつきの人達を案内してるうち、自動車を駅の方へ廻せばいゝぢやないの。
新井  さうしませう。あとでまた、蓄音機を借りてようござんすか。
二葉  いゝわよ。

[#ここから5字下げ]
新井が出て行くと、二葉は、また、手紙を読み耽る。
とねが、左手の扉から顔だけ出して、そつと、この様子を見
前へ 次へ
全75ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング