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三
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八月の末の或る日。午後四時頃。
小舎の内部。事務所に充てた一室。
正面に二つの窓。遠く、浅間の全容。窓ぎはに製図用卓子。
左手は居室に通ずる扉。
右手、奥に大きな窓。そこに、事務卓子が二つ、向ひ合つて置かれてある。同じく右手、プロセニウムに近く、事務所の出入口。
壁には、地図、宣伝ポスタア、軽便の時間表など。その他、書類を入れた硝子戸棚。室の一隅に、測量用器具が雑然と立てかけてある。
二葉が事務卓子の一つに向ひ、ぼんやり頬杖をついてゐる。
右手の窓口に郵便配達夫の姿が現れる。
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二葉 遅いのね、今日は……。
配達夫 数が多かつたからね。(郵便物を卓子の上に投げ出す)
二葉 (それを、一つ一つ撰り分け、そのうちの一通を手早く開封する)
配達夫 今日は、持つてく手紙はないかね。
二葉 待つてゝくれゝば書くわ。
配達夫 さういふわけにやいかねえよ。腹がすいちまつた。
二葉 食べるもんぐらゐあつてよ。
配達夫 明日は早く来るよ。(去る)
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