面倒な気持はない。こんなことを、お前が知つたつてなんにもならんが、世間には、さういふ例がいくらもある。わしも、この年で、しかも、お前の眼の前で、こんな生活を続けたくはないんだが、今更どうも、致し方がない。お前に不愉快な思ひをさせてすまんが、こゝはひとつ、大目にみてくれ。
二葉 あたしに、そんな気兼ねをなさらなくつていゝことよ。人間は、何時だつて自分に克てないことがありますわ。
州太 それがわかつてくれゝばありがたい。だから、お前は、飽くまでもこの家の女主人だ。誰にでも遠慮なく振舞ふがいゝ。
二葉 あの方にも、さう云つておあげになるといゝわ。あたしと、あの方と、どんな風に遠慮なく振舞ひ合ふか、お父さん、見てらつしやいね。女同志は、世間でいふほどうるさいもんぢやなくつてよ。
州太 お前にはかなはんよ。まあ、よろしくやつてくれ。もうぼつぼつ飯の支度ができてる時分だ。あつちへ行かないかい。(歩き出す)
二葉 もう少しかうしてたいの、あたし……。浅間がいゝ色ね、今朝は……。
州太 そのうちに、一度、登つてみるか。
二葉 賛成ね。その用意に、靴も持つて来てるのよ。
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