州太  おとねつていふ女か。(間)お前はなんだと思ふ?
二葉  あたしに云はせるの? ずるいわ……。
州太  おほかた察しがつくだらう。わしは、お前に、なんにも隠さない。(間)その通りだ。
二葉  結婚なさるおつもり?
州太  はじめは、そんなつもりぢやなかつた。今でも、そんなことは考へてない。しかし、お前が勧めるなら、結婚してもいゝ。

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長い間。
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二葉  それだけのことがわかれば、もういゝのよ。
州太  それだけのことが、どうして知りたかつたんだ?
二葉  さうね、好奇心よ、きつと。
州太  好奇心……? そんな風に誤魔化さなくつてもいゝ。わしは、お前の前で告白をするが、あの女とわしとの関係は、お前たちが想像もつかないやうな、俗つぽい、だらしのない関係だ。あれは小諸で芸者をしてゐた女だ。いろいろ苦労をした揚句、商売を止めたいといふから、わしも今、独り身ではあり、引取つて世話をすることにしたんだ。向うも、男なら、わしと限つたわけでもあるまいし、こつちでも、あれでなけれやならんといふほど、
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