二葉 自分だけのことなら、心配なんか、ちつともしてませんわ。
州太 すると、わしの方のことが、心配だつていふのかい。
二葉 ……。
州太 今度こそは大丈夫だよ。去年から、少しづゝでも、お前んところへ小遣を送つてゐるが、あれはちつとも無理をして送つてゐるわけぢやない。この調子なら、お前の嫁入の仕度ぐらゐなんでもないさ。恥かしくないだけのことはしてあげられるつもりだ。場合によつては、お前たち二人のために、手頃な別荘を建てゝやつてもいゝぜ。今から、その辺で、此処と思ふ場所を探しといたらどうだ。
二葉 話がよすぎるわ。
州太 さう思ふだらう。ところが、運の向いて来るつていふのは不思議なもんで、わしにも夢だとしか思はれないことがある。この機械だつて(櫓を指さし)十二万円も出して亜米利加から取り寄せたんだ。四十何万坪、ちよつと五十万坪ばかりの土地が、唯みたいな値で手にはひる。それが、今、どんなに安く売つても、坪二円……。温泉附なら、その十倍といふ相場だ。資金の方は、日疋君が、いるだけ出すと云つてくれる。今の暮しだつて、もつと派手にすれば出来ないこともないが、わしの趣味と良心が、それを許
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