に行つちまふ男ぢやないのかい。
二葉  あん時こそ、あたし、どうかしてたのよ。まだ二十一だつたんですもの。
州太  専門はなんだ。
二葉  法科から文科に変つたんですつて……。社会学でせう。
州太  学校を出て、どうするつもりなんだ。
二葉  今時、自分の思ふやうな口があるもんですか。お父さんの関係してる会社へでも、使つて貰はうつて云つてるわ。それや、その方が悧巧よ。あたし、無闇に野心家ぶつてる男、嫌ひなの。(間)あの蓄音機ね、山ん中で退屈だらうからつて、あの人がくれたのよ。

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長い間。
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州太  ふむ、さうか。で、もう約束をしてしまつたんだね。
二葉  えゝ。
州太  そんなら、もう、なんにも云ふことはないさ。わしに相談をしなかつたのが、少し手落ちだが、何れにしても結果はおんなじだらう。わしの、たつた一つの楽しみは、お前に、すばらしいお婿さんを見つけてやることだつた。しかしまあ、お前が自分で見つけたのなら、それはそれでもいゝさ、すると、お前は、今、先々のことで、なんにも心配はないんだね。

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