るわけだ。見といで、お前にも好きなやうなことをさせてやるから……。もうひと辛棒だ。
二葉  好きなことつて、あたし、今のまゝで結構よ。それに、あたし……。(さう云ひかけて、番小屋の前のベンチに腰をおろす)
州太  どうした。
二葉  ある人と結婚する約束をしたの。

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長い沈黙。
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州太  それで……。もつと詳しい話を聴かうぢやないか。
二葉  その人、まだ学校へ行つてるのよ。家はちやんとしてるらしいの。市会議員にもなつたことがあるんですつて、お父さんは……。でも、学校を卒業しないうちは、結婚なんか許してくれないでせう。来年の三月までよ、それも……。家の方で変にとるといけないから、勤めなんかよして、しばらくお父さんのそばにゐてくれつて、その人、あたしに頼むもんだから、さうすることにしたの。随分、いろいろ考へたのよ。それや、愛してくれてることはたしかなの。家で許してくれなけれや、そん時は、断然、飛び出しちまふつて、それほど真剣なの。
州太  大丈夫かい、こんどは……。前のやうに、また、金持へ養子
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