水道の木管は、あいつ、どうにかならないでせうか。去年の代金を渡さなけれや、後を寄越さないつて云つて来てるんですが。

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その時、番小屋の裏から、二葉(二十四)がひよつこり姿を現す。朝日を顔いつぱいに受けて、明るく笑つてゐる。
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州太  (新井に)その話は、あとでしよう。(二葉に)よう、もう起きてるのか。どうだ、寒くはなかつたか。
二葉  いゝえ。今、その辺をずつと歩いて来たとこなの。いゝところね。
州太  気に入つたかい。
二葉  なんだか、想像と丸で違ふんですけれど、想像よりは、ずつと大きな、伸び伸びとした景色ね。
州太  これでも、やうやく、人間が住める場所にしたんだ。来年の夏は、あの上の方に、ずつと別荘が建つ。東京の銀座とまでは行くまいが……。自動車も二三台は置くつもりだ。
二葉  来年の夏つていふと、随分間があるわね。
州太  それや、お前、未開から文明へ遷るためには相当の年月がかゝるよ。その代り、それだけのことをやつてしまへば、わしらも、夏だけ此処にゐて、あとは東京でなりなんなり暮せ
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