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献作去る。とねが、その後を見送る。
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州太 おい、そんなところに立つてないで、早く、ビールでも出したらどうだ。
とね ビールはもうみんなになりましたけれど……サイダアぢやいけませんか?
時田 わしはなんでも結構。(間)だが、どつちみち、この夏の間には合はないね。
州太 (とねに)わしには水をいつぱい……。(とね去る)この夏は、まあ、土地を見せるだけにして置くんです。かういふ仕事は、あせつちやいかんです。なにしろ、もうちつと景気が出なけれや……。
時田 おほきに……。だが、こいつは当てにならないしね。
州太 それがですよ。温泉が出ると出ないとでは、大変な違ひですからね。なに、いよいよ温泉が出るつていふことになれや、これこそ、軽井沢と草津とを一と所に集めたやうなもんでせう。
時田 軽井沢はとにかく、草津の湯つてものは、さう何処からでも出るもんぢやなしね。
州太 さうですとも。これで、いろいろ計画をしてゐるんですが、日本で初めての試みとして、あの山のスロープを利用して、グライダアをやつてみようと思ふんです。
時田 なんだね、それは……。
州太 発動機無しの飛行機ですよ。夏のスポーツとしては絶好のもんです。
時田 それもいゝが、先づ土地を売るんだね。そして、金持ちをうんと吸収しなさい。金持ちといふもんは、何かつていふと、手紙だ、電報だ。今の調子だと、切手代の上りが、県の三等局をひつくるめて、びりから二番目だよ。
州太 どうも、困るのは、いろいろ逆宣伝をする奴がゐることです。浅間の爆発なんて、新聞も大袈裟に書きますからね。
時田 それもさうだが、あんたと日疋さんとの間が面白くなくなつて、向うぢや、この土地へ金を注《つ》ぎ込むことに、そろそろ厭気がさし出してるつていふやうな噂を聞いたが、そんなことはあるまいね。
州太 まあ、わたしからは、なんにも云はずに置きませう(暗い顔をする)人の金で仕事をする人間の苦労も察して下さい。
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とねがサイダアを盆にのせて来る。
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とね どうです、中におはひりになつちや……。
州太 出資者の日疋君にも、よくこの話はしてあるんですが
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