し、お互、話相手にはなるだらう。
とね ほんとに、お宅のお嬢さんもお気の毒ですわね。
時田 なに、あれはあれでいゝのさ。子供がゐれば、亭主に死なれても、存外平気なもんだね。たゞ東京へだけは、もう一度出てみたいつて云つてるよ。どうにもならん話だがね。
[#ここから5字下げ]
この時、丹羽州太(五十)が、四五人の男を従へて帰つて来る。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
州太 時田さん、今度こそ掘り当てたよ。
時田 はあ。
州太 地下三尺で、もう三十八度といふ温度です。その辺の砂は、硫黄の結晶で真黄色だ。川の水からは湯気が立つて、魚があふ向けになつて浮いてるですよ。
時田 この前もさうだつたね。
州太 いや。この前のところなんか、硫黄の分量だけでも比較にならない。(男の一人に)おい、新井、こゝへ砂を出してみせろ。
[#ここから5字下げ]
新井務(三十)は、空壜につめた砂を紙の上にひろげる。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
州太 あ、さうさう。(時計を出してみて)献作、お前、早く荷馬車の支度をして、駅へ行つてくれ。急がんと間に合はんぞ。
[#ここから5字下げ]
菰原献作(四十五)は、麦藁帽を脱いで頭を下げる。それから、とねの方に近づき、
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
献作 そいぢや、車に敷く座蒲団をお貸しなすつて……。
とね 痛いといけないから、二三枚持つてくといゝわ。(奥へはひる)
州太 (時田に)どうです。見事でせう。
時田 見事には見事だが、問題は、湯が出るか出ないかだ。まあ、しかし、希望はもてるね。
州太 希望どころぢやない。これこそ事実といふやつです。(急に思ひ出して)おい、新井、昨日の杭打ちを続けてやれ。道路に添つたところを、みんな片づけろ。三人も連れて行けばいゝだらう。
[#ここから5字下げ]
新井は、そこにゐる男たちを連れて去る。とねが座蒲団をもつて出て来る。献作、それを受け取る。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
献作 旦那はおいでになりませんか。
州太 そんな暇はない。お前一人で大概わかるだらう。若い娘が、さう幾人もこんなところへ降りる筈がないよ。
[
前へ
次へ
全38ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング