てゐると自ら信じてよろしい。さういふ「感覚」を備へてゐて、しかも、今時、いちいち、そんなことにばかり神経を使はず、自分たちの時代になつたらと、やがて来る光栄の日を待ちながら、その「感覚」を益々研ぎ澄ましておいてほしいものです。
青年の力が当然ものを言ひ、自分の意志で物事が処理できる場面で、この「卑俗さ」が忍び込むのを警戒し、阻止しなければならぬ機会は、ほかにいくらでもあります。但し、それは、周囲に気を配ることではない。自分自身の皮膚が犯されるか、犯されないかの問題です。「卑俗さ」は怖れるには当らぬもの、たゞ、何処にあるかがわかつてゐればいゝものです。それはちやうど黴菌のやうなものです。これに対しては、過度の潔癖は禁物で、精神の健康が何よりの抵抗力であります。
「滔々と」といふ形容が実によく当てはまる現代の世相の「卑俗さ」は、是非とも、この戦争の遂行中に、国民の自覚と努力によつて一掃しなければならぬものですが、実を云へば、これはもう、心構へや工夫の問題ではないのです。いはば時代を覆ふ不治の病ひのやうなもので、恐らく、成育期を異にする新しい世代の登場を俟つて、はじめて面目を改め得るていのものであります。青年は、しかし、青年としての矜りと嗜みとをもつて、この内外多難の時代を継ぐに当り、単なる風習の上に如何なる「卑俗さ」が尾を引いてゐたにしても、決して、前世代の善意と苦闘とを疑つてはなりませぬ。まして、諸君に対する熱烈な期待は、表面はどうあらうと、心中、祈りに似たものとなつて燃えてゐます。
先輩、長上、指導者の言動を、個々に批判するの愚を敢て犯さず、その言はんとするところ、その示さんとするところを、率直に受け容れ、その言ひ方、示し方の「心に満たぬ」ものは、自らこれを補つて、十分に力あるものとすべきです。
時代はまさにさういふ時代だといふことを、こゝで特に、私は、多感な青年諸君に愬へるものです。
[#7字下げ]一七[#「一七」は中見出し]
最後に女子青年のために、「女の嗜み」について、もう少し補足しておきたいと思ひます。
「女の嗜み」のうち、最も卑近なものは、身だしなみでせうけれども、これは前にも云つたとほり、単に「化粧」や「服飾」によつて、「美しくみせる」といふことを問題にしてゐるのではなく、むしろ、女の「女らしい」慎みと用意とを正しい「身づくろひ」によつて示す
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