。私は少くともさう信じたいのです。
 では、どうすればこの醜いすがたが改められるか。こゝから改めて行かなければ、すべての改革は不可能だといふ私の見解を少し述べてみませう。
 こゝで前以て断つておかなければならないことは、なるほどそれは根本的な問題かも知れないけれども、今時分そんなことを問題にしてゐては、急場の間に合はないぢやないかといふ人があらうといふことです。
 さういふ考へ方が私はいけないと思ふ。
 錆びついた、ねぢのゆるんだ、歯車のすり切れた機械ならば、どんなことをしてでも、それはそのまゝはふつておいてはならないのです。さういふ機械にかけた製品は、きつとどこかに欠点があるばかりでなく、第一に、いくら油を差しても、いつかは全く運転が利かなくなることは眼に見えてゐます。少くともそのうちには能率も次第に下つて行くでせう。そんなことがあつていゝでせうか。

 さういふわけで、私は、現在の家庭生活の、この根本的な弱点を改める国民的運動がどうあつても必要だと思ふのです。
 それは、何よりも、家庭における「秩序」の確立、或は復活であります。
 前にも云つたやうに、時代の推移は、日本の家族の性格を必然的に変へて来てゐます。封建時代そのまゝの家族制度、乃至は、その制度の中から生じた弊害までを、今日、無批判に踏襲せよといふやうなことを申すのではありません。
 封建時代に於て、既に日本の「家」の精神はある程度歪められてゐたとも云へるのでありますから、この昭和の聖代に於ては、最も純粋で、美しく、健全な「家」の伝統を、新しい時代の要求に基いて、こゝに描き出して行くといふことがわれわれの務めであります。
 この大事業の基礎となる思想は、申すまでもなく、日本の伝統のなかに燦然とその光輝を放つてゐる「忠孝一如」の思想でありますが、それと同時に、最もここで強調しなければならないのは、「家の子は国の子」といふ、久しく封建的家風の下に葬られてゐた極めて雄大な日本古来の国民的観念であります。
 この二つの基本的な考へ方の上に、現代日本の「家」の秩序が整然と成り立たなければなりません。
 そこからはまた、結婚は単に個人間の問題ではなく、むしろそれ以上に、「家」と「家」との問題であるといふ道理が生れて来ます。そして、最後に、結婚は、国家的にみて相当大きな問題だといふところまで、国民のすべてが考慮を払はな
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