ものは、事情の許す限り、それぞれの道に進むこと、大いに結構でありますが、一方、家業を継いで父祖の歩んだ道を歩むといふことも、これまた、非常に立派なことで、日本青年の「志」とするに足ることであります。
 たゞ、それには「夢」があるかないかといふことです。
 極く月並な考へ方をすれば、どんな家業でも、たまたまそれによつて、相当の産を成し、土地の声望を得るといふやうなことだけで満足するでせう。一家の繁栄はすべての職業の目的であるかのやうに思はれてゐました。青年の夢は決してそんなものであつてはなりません。こゝで具体的に、一人々々の青年の「かうあつてほしい夢」について私が語ることはできませんが、少くとも、今日、「職域奉公」といふことが云はれるのをみてもわかるとほり、すべての職業は、その職業自体が国家の目指すところを目指してこそ、青年の「志す」道として選ぶに足るものであり、それはどんなにさゝやかな仕事のやうにみえても、その仕事をほんたうに活かせば、常に大きな「夢」につながるものであります。
 なぜなら、仕事の価値はその「量」だけで計るのではなく、むしろ、その「質」であり、「質」だとすれば、それは、
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