深く地方などに残つてゐはしますまいか。つまり、卒業免状乃至は何々といふ肩書を見せに国へ帰ることが「学成り志を達した」ことだといふやうな気風です。
 そして、これは「故郷へ錦を飾る」といふ風な、いはゞ感傷的な立身出世主義に通じるもので、従来、多くの青少年は、これがために奮ひ立ちもした代り、また同時に、これがために屡々身を誤つたのであります。
「立身出世」の夢ほど、青年の真の「志」から遠いものはないと私は信じます。栄達を望むのは人情だとすれば、栄達にも増した美しい夢を、より人間的な夢を、なぜ青年に与へようとしなかつたのでせう。
 昔の少年たちは、大臣大将を夢みたものですが、それは無邪気な英雄主義でありました。しかし、明治この方、前の詩に現れてゐるやうな気風が盛んで、田舎にゐては志が遂げられないと思ふものが多かつたのです。これはひとつには、地方の雰囲気が雄心勃々たる青年の「夢」を育てるだけの魅力を欠いてゐたことにもよりますが、ひとつには、専門の学校を出なければ一人前の人物になれないといふやうな誤つた考へがはびこつてゐたからです。
 固より、特別な仕事に興味をもち、それだけの天分を恵まれてゐる
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