は、また別の形で「尊皇攘夷」といふ精神が高く掲げられなければならないのではありますけれども、それは維新当時の如く、国内に倒さなければならぬ幕府のやうな存在はなく、全国民の向ふべき道は炳乎として定まつてゐるのであります。それゆゑに、今日の青年は、おのおのが選ぶ本来の職域に於て、その「志」が遂げ得られることを無上の幸福と考へなければなりません。
そこで問題となるのは、「男子志を立てゝ郷関を出づ、学若し成るなくんば死すとも還らず」といふ有名な詩についてであります。
こゝで云ふ「志」は、前に述べたやうな日本風の解釈に従ふことはできますまいが、ともかく前途に洋々たる望みを抱いて故郷を離れる青年の意気を示したものであります。そこで学業が若し中途で進まないやうなことがあれば、自分の「志」は全く達せられず、故郷に帰つて人々に合はす顔がないといふ、悲壮は悲壮に違ひありますまいが、しかし、どことなく独りで力んでゐるやうなところのある詩であります。今は誰でもさう思ふでせう。
ところが、嘗ての時代は、かういふ詩が実にぴつたりと胸に来る時代だつたのです。そして、さういふ時代の気風が、まだまだ実際には、根
前へ
次へ
全40ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング