歩進んだ、人格の実質的和合を基礎とするものでありますから、「夢」としては一見、華やかさと神秘な翳《かげ》をもつてゐない代り、よりおほらかな、より建設的なものをもつてゐます。例へば、恋愛を天|翔《か》ける「夢」だとすれば、結婚は、地上から足をはなさぬ「夢」です。恋愛は想像と情熱の上に築かれる「夢」ですが、結婚の「夢」は希望と努力のうへに築かれます。恋愛は祈願と追求と、時としては不安のなかに呼吸する「夢」ですが、結婚は、激励と譲歩と、常に信頼のうちに育てられる「夢」であります。

[#7字下げ]三[#「三」は中見出し]

 青年の「夢」は、かういふ風に、人生のあらゆる問題、あらゆる事件に向つて伸びて行きます。この外に、或は海外雄飛の夢となり、発明発見の夢となり、或は弱者救済の夢となり、武功抜群の夢となり、最も卑俗なものに、玉の輿に乗る夢があり、一攫千金の夢があります。

 世間でよく、空想家とか夢想家とか云はれる類ひの人々があります。
 一概には云へませんが、空想家、夢想家の常識で嗤はれる理由は、まづ第一に、その夢が現実からまつたく浮きあがつて生命のある美しさをもつてゐないこと、第二に、年
前へ 次へ
全40ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング