の境目だからです。

 恋愛に多かれ少かれ「夢」の要素があるとして、その最も著しい現象は、「思春期」を含む、恋愛なるものを想像する時代の、つまり、はつきりした目標のない、或は「空想のなかに浮ぶ美しい異性」への、漠然たる「恋心」とでも云ふべきものでありませう。
 次には、誰彼となく眼に映る異性のなかから、あてもなくその一人を拾ひあげて、秘かに戯れの思慕を寄せてみるといふこともありませう。
 戯れが戯れに終らない悲劇も、この時代においては、さほど深い傷手とはなりません。
 この種の「夢」は、はかないと云へば限りなくはかないものですが、しかし、これによつて、現実の恋愛が準備され、その恋愛の値打が予めほゞ決定されるといふことは、看過できないことであります。
 恋愛は、それが若し、真に恋愛と名づけ得るものなら、これはたしかに、ひとつの「力」であります。
 異性が相愛する、その愛し方によつて、自他ともに成長し、向上し、強大となることは、理窟の上からも、また、多くの例をみても、間違ひのないことです。
 かゝる「恋愛」は、また、誰にでも出来るといふものではなく、それに値する人間のみがなし得るのです。し
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