それで、たうとう、二人で相談したんですの、お互に呼吸抜《いきぬ》きをしようつて……。
詩人 僕のゐない間だけ。
妻 さう、一週間だけ、つまり、世帯休業《しよたいきうげふ》よ。夫婦生活の休暇ですわ。
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この時、夫が帰つて来る。妻の姿を見て、別に驚きもせず、かるく会釈をする。
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詩人 奥さんからすつかり聞きましたよ。今、休業中なんですつてね。
夫 だが、あなたに関係はありませんよ。
妻 さうよ、あなたは平気でいらつしやつていゝのよ。
詩人 すると、どういふことになるのかなあ。僕のいろんなことは誰がしてくれるんです。それは世帯以外と認めるんですか。
夫 無論です。
妻 でも、あたしは、なんにもしませんよ。第一、けふ帰つて来たのは、全く偶然なんですもの。
夫 偶然でもなんでも、鳥羽さんの世話だけは、お前の役目だ。
妻 戯談《じようだん》おつしやい。下宿人をおいてるつていふのは、誰のためなんです。あたしのためばかりぢやありませんよ。
夫 おれのためばかりでもない。
詩人 世
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