の人は? どうしたでせう。
詩人  今、電報を打ちに出かけました。
妻  電報を? 何処へ?
詩人  郵便局へ。
妻  さうぢやないのよ。誰んとこでせうつていふのよ。
詩人  あなたんとこだつて言ひましたよ。そいぢや、電報を見て帰つて来たんぢやないんですか。
妻  出掛けて、もうそんなになりますの。
詩人  なるかも知れませんよ。喧嘩でもしたんですか。
妻  あの人、何か言つてました?
詩人  僕の想像では、あなたがいよ/\先生に愛想をつかしてお里へ帰られたんぢやないかと思つてました。
妻  さういふ意味もないことはないんですの。あなただから御話しますわ。まあ、かういふわけなのよ。聴いて頂戴。
詩人  坐つて聴いてもいゝでせう。(二人、長火鉢のそばへ坐る)
妻  あなた方にはおわかりになるかどうか知らないけれど、あたし達夫婦は、今、倦怠期なの。
詩人  倦怠期……ふうん、結婚後何年目です?
妻  七年目ですわ。
詩人  ぢや、おそい方だ。倦怠期《そいつ》の来かたが……。
妻  でも、これが四度目ですもの、やりきれないつていふ時期がよ。
詩人  四度目……約一年おきにやつて来ますね。

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