せうか。
夫  とに角、家内が帰つてからのことにして下さい。早速、電報を打つて見ますから……。

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夫は、蟇口を懐へねぢこんで外へ出る。詩人は、そのまゝ二階へ上るが、やがて、
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詩人の声  (朗唱する)夫婦、繋がれた一|対《つゐ》の男女、朝は夫の仏頂面《ぶつちやうづら》、夜は妻の溜息、十年一日の如く、これも自業自得、互に見あきた顔と顔。

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玄関の方から風呂敷包みを抱へて、妻がはひつて来る。審《いぶか》しげに家の中を見廻す。ふと、二階の声を聞きつける。
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妻  (階段の中途までかけ上り)鳥羽さん、もう帰つてらしつたんですか?
詩人の声  早く飯を食はして下さい。
妻  何時《いつ》お帰りになつたの。
詩人の声  もうさつき……(現れる)飯を食ひ損《そこな》つて、腹がぺこ/\だ。汽車で弁当を買ふつもりでゐたら、つい寝込んぢまつて……眼が覚めてる時は、生憎《あいにく》汽車が動いてる時なんです。
妻  うち
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