帯のためだ喃《なう》。
妻 さうです。ですから、その方も休ましてもらひます。
夫 おい、おい、そんな無茶をいふやつがあるか。
妻 なんです。それは誰に向つておつしやる言葉です。あたしは約束の期間中、あなたから妻といふ取扱ひをうけないはずでしたわね。
夫 それと、これとは問題が違ふ。
妻 いゝえ、違ひません。約束の条文を変更しない限り、あたしには、なんの義務もありません。
夫 さういふならそれでいゝ。お気の毒だが鳥羽さんには、もうしばらく国へ帰つてゐて頂かう。
詩人 僕は国へ帰るのは困りますよ。そんなわけなら、どこかほかへ、下宿を探しませう。しかし、一体、その約束の条文つていふのは、どういふんです。差支なかつたら、僕に聞かしてくれませんか。或ひは、解釈の仕方で、奥さんが言はれるほどの面倒な結果にはならないかも知れませんよ。
夫 いや、実は、かういふわけなんです。われ/\夫婦は、一見ほかの夫婦と変つたところは、ないやうなんですが、よくその関係並に現在の状態を突つ込んで考へてみると、世の中にはまたとない不思議な夫婦なんです。(間)われ/\は、もと/\恋愛から出発した結婚をして
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