だけ、お持ちになつてね。
鳥羽 いゝな、その言葉は。しかし、滅多に使ふのはよし給へよ。ぢや皆さん、永《ながら》く御厄介になりました。いや/\、どうかそのまゝ。(誰も送つて出ようともしない。詩人は玄関の方に去る)
鴨子 本当に引越すの、あの方。
妻 あれで心はいゝ人ね、すこしうるさいだけよ。
夫 だが、呑込《のみこみ》だけは早いな。察しのつくこと驚くべしだ。
茶木 簡単に出て行くね。どうだい、代りに僕が来ようか。
夫 (顔を見合せ同時に)もう人をおくのは、コリ/\だ。
妻 もう人をおくのはコリ/\よ。
鴨子 あたしなんだか、気の毒になつて来たわ。
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不意に鳥羽があらはれ、手紙を放り出す。
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鳥羽 郵便が来てましたよ。(よごれた二足の下駄をすかして見る)
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玄関が暗くてよく見えない。
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妻 (封筒の宛名を見て)あたしんとこだわ。
茶木 (鳥羽の方を見て)あ、それ、片方は僕んです。
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