妻 (封筒を裏返し)おや、門司のをばさんからだわ。たうとう駄目だつたのかしら。(開封して黙読す)
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鳥羽と茶木とは、下駄を代る代るにとりかへて見比べる。
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妻 (突然)人を馬鹿にしてるわ。(一同驚く)
妻 (夫に)これ御覧なさい。をぢさんは気が違つてゐるんですつて――だから何を言つても本気にするなつていふのよ。
夫 (読みながら)なんだ、これで見ると金持どころの騒ぎぢやないぢやないか。
妻 人さへ見れば、五万円|宛《づつ》やるつていふらしいわね。なるほど、それぢや病気だわ。
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鳥羽、茶木、鴨子何れも唖然としてこの話を聞いてゐる。
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鳥羽 (にや/\しながら)さういふ病気は苦しくないだけいゝよ。
妻 まつたくだわ。
鳥羽 そこで我らは又逆戻りだ。(二階へ上りかける)
夫 (てれくささうに)ぢや鳥羽さん、御覧の通り世帯はまた開業ですから、どうかよろしく。
鳥羽 いやなに、どうぞ御
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