しら。
夫  さあ、お前に出来ると思つたらやつて見るがいゝ。(詩人の、「エヘンエヘン」といふ声)
妻  (平気で)うるさいのね。人が話をしてゐるのに、せきばらひなんかして。

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この時又玄関の格子が開き、
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声  渋谷君居ますか、僕です。茶木《ちやき》です。
夫  (勢よく立上り)居るよ、上り給へ。

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客はもうづか/\と上つて来る。
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茶木  (両手で麻雀《マージヤン》をやる真似をしながら)どうだい一番。
夫  よからう。
妻  久しぶりですわ。鴨子さんも如何《どう》?

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一同は卓《テーブル》を囲み、賑やかに麻雀《マージヤン》をはじめる。わけても主人夫婦のはしやぎ様は一と通りでなく、妻は夫の腕をつねり、夫は「痛い、こん畜生」などと他愛もない和合ぶりを見せる。二階からはしきりに「エヘン、エヘン。鴨子さん、エヘン。鴨子さん」で、遂に綿のはみ出したかけ蒲団が麻雀卓《マージヤンテーブ
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