様に少しおねがひがあつて、伺ひましたの。
詩人 僕は居たつてかまはないでせう。
若い女 いゝえ、貴方《あなた》がいらしつちやこまるの、秘密のお話だから。
詩人 それぢやあとで、二階へおいでなさい。(詩人二階へ上る)
妻 何んのお話、いつたい?
若い女 あのね、奥様にこんなことお願ひするの、変ですけど、あたしもう困つちやつて……。(あたりに気を配り)聞えやしないかしら……。
妻 大丈夫。ぢや、もつとこつちへいらつしやい。
若い女 (妻の方へにじりより)あたしね、はじめ、鳥羽さんつていふ方、もつと偉い詩人だと思つてましたのよ。ですから、少し崇拝しちやつてたの。お笑ひになつちやいやよ。でも、この頃やつとほんとのことが判つて来たの。それに、あの方時々|家《うち》へなんか入らつしやるでせう。なんどそれは困るつていつても、お判りにならないのよ。父がそのたんびにいやな顔をするんですもの。「ありや何処の乞食だ」なんてあとで言ふのよ。あたし困つちやふの。でも、かう言つちや悪いけど、随分ひどい下駄をはいてらつしやるのよ。
妻 あの下駄でせう。あれしかないんですもの。
若い女 それだけなら
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