しようかしら……。
詩人 (台所から顔を出し)エヘン。(妻急いで、長火鉢の鉄瓶をおろす)
夫 (読む)「短い文句の手紙を、子分達は寄り合つて読んで見ると……」
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その間に、詩人が十能を持つて現はれる。
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詩人 奥さん、ねえ、友人の奥さんとしてお願ひするんです。蒲団の裏が段々|綻《ほころ》びて来て、綿がはみ出して来ましたよ。あいつを今晩は是非……。
妻 友人の奥さんなんて、あなたの友人つていふのは、誰なんですの。
詩人 この人さ。あなたの旦那さんさ。
妻 そんな人の存在は、あたし認めませんよ。
詩人 さうか、そいぢや奥さんが、直接僕の友人ならどうです。
妻 男の友人なんか真平《まつぴら》です。
詩人 御主人が聞いたら、さぞよろこばれるでせう。もつとも、そこで聞いてるから云ふんだらうが……。
夫 (また読み始める)「上州無宿者の名草《なぐさ》の伊太郎《いたらう》が暗きを選《よ》つて、そつと歩いてゐる。右へ行けば九十六間の両国橋、左へ行つて、船蔵前《ふなくらまへ》の川にかけられ
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