あしたから、そつちへ寝ますからね。
夫 僕のそばへかい?
詩人 エヘン。
夫 (考へて)わたくしのそばへですか。
妻 馬鹿お言ひ、あたし一人でそつちへ寝るのよ。(起き上り)やかましくつて眠てられやしない。(夜具をたゝみ押入へしまふ)
[#ここから5字下げ]
その度毎に、風が埃をまくし上げて、男二人の食事を脅やかす。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
夫 これは、たしかに規約違反だ。どうです、鳥羽さん。
詩人 第何項に該当しますか。
夫 「故《ことさ》ら相手に苦痛を与へんとする言動を犯したる時云々」の項です。
詩人 さやう、まあ、これくらゐのことなら、苦痛とはいへますまい。
[#ここから5字下げ]
この間に、妻は着物を着終り、勝手の方へ行く。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
夫 しかし、昨夜《ゆうべ》僕が、寝床へはひつてから講談を読んでゐたら、家内が「エヘン」と言つた。声を出して読んだことに対する抗議だらうと思ふが、これはどうですか。
詩人 奥さんは、もうやすんでをられましたね。
夫
前へ
次へ
全33ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング