あたしたちの知つたことぢやあるまいし……。それより、早くおつくりをしませうよ。露が消えちまうわよ。

[#ここから5字下げ]
(めいめい、懐中鏡を取り出して化粧をしはじめる)
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
桔梗  もう、あたしの着物もはげて来たわ。
女郎花  あたしを御覧なさい、こんなに顔が荒れちまつて……。(こうろぎがぴよんぴよん跳ねながら現れる)
こうろぎ  よう、みなさん、おめかしだね。
女郎花  あら、こうろぎ[#「こうろぎ」に傍点]さん、早いのね……。昨夜はどうだつた?
こうろぎ  昨夜は、蟷螂の奴に出くわして、命からがら縁の下へ逃げ込んだよ。
女郎花  さうぢやないのよ、あの話よ、北の窓口の一件よ。
こうろぎ  ああ、あれね。あれはあれきりよ。だが、やつぱり話声は聞えたさ。かういつてたぜ――そこから中へはひつちやいやよ。そこにさうしてるのよ。あんたはどこへでも登れるのねえつて……。奴さん窓からはひらうとしたんだね。
女郎花  まあ、図々しい。
桔梗  ちよいと、お嬢さんが起きて来たわ。
芒  窓を開けたわ。
こうろぎ  あの髪の毛
前へ 次へ
全14ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング