若い男の人つて誰がゐて……。あの変な、髯をぼうぼう生やした詩人だけぢやないの。
女郎花 ね、それが怪しいのよ。
芒 まさか……。お嬢さんが、あの詩人と……。あら、をかしい。(笑ひこける)
女郎花 ぢや、今夜、起きて聞いて御覧なさい。あの北の窓口よ……。きつと、あそこで、二人の話声がきこえるから……。
桔梗 それが、あの詩人だつていふことがどうして判る?
女郎花 それや、あんた、話のしぶりでわかるわ。――お嬢さんがかういふんですつて――あなたはどうしてさう、黙つて考へてばかりゐるのつて……。それからあなたは手をどこへしまつてるのつて……。そら、あの詩人を御覧なさいよ。何時でも歩く時懐手をしてゐるぢやないの。
芒 さうね。
桔梗 ぢや、やつぱり、さうか知ら……ずゐぶんお嬢さんも物好きね。
女郎花 あたし、なんだか、くしやくしや[#「くしやくしや」に傍点]するわ。あの詩人の奴がいけないのよ。この庭に降りて来る人で、あたしたちに話をしかけてくれるのは、あのお嬢さんだけぢやないの。あんな優しいお嬢さんを、一体どうしようつていふの……。(泣声になる)
芒 泣かなくつたつていいわ、
前へ
次へ
全14ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング