お嬢さんは、まだ起きていらつしやらないし、話す相手がないからなんだわ。
桔梗 お嬢さんは、今日に限つてどうしたんでせう。こんなに遅くまで……。きつと、泣いてるのよ。
女郎花 どうして……。泣くわけはないぢやないの。もつと此処にゐたいつていひ出したのは御自分なんですもの……。旦那さんや奥さんが、どんなにおつしやつても、東京に帰るのはいやだつていひ張つたのよ。そのわけは、わかつてるでせう。
芒 ┐
├(同時に)どういふわけなの……。
桔梗┘
女郎花 あら、あなたたち、知らないの、それはね、かうなの――あたし、それ、こうろぎ[#「こうろぎ」に傍点]さんに聞いたのよ……。
芒 何時……。
女郎花 一昨日の晩。あなたたちが眠つてしまつてから……。かうなんですつて――(かういひながら、芒と桔梗の耳元に口を寄せ小声で何かいふ)
芒 まあ……。
桔梗 ほんと、それは……。
女郎花 さうなんですつて……。
芒 だつて、もう、他の別荘はみんな閉まつちまつたわよ。ここ一軒だけよ。夜、灯がついてるのは……。
女郎花 うそですよ、あの白煉瓦の家は、まだ引き揚げませんよ。
桔梗 あそこに、
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