つてゐたよウ、ほかのひと家へ帰つたけれど、わたし一人、みなさんの来るのを待つてゐたよウ」
 例の上海の女が、カンテラを片手に船を滑らせてやつて来るのである。
「ほう、感心々々」
 と、小川部隊長は、はじめてみるこの変り種を、私がさうであつたやうに、また意外千万だといふ風に見あげ見おろした。私は今朝のことを説明した。
「懐しいんだな、奴さん」
 日本兵を満載した船を、かうして甲斐々々しく操つて行く女の姿は、まことに、今日の戦場の奇観であつた。
 軍工路守備隊からやつと自動車で、楊州の本部宿舎へ着いた時は、もう十二時を過ぎてゐた。
 こゝで云ひ忘れてはならぬのは、今朝、名誉の負傷をした内田軍曹の消息である。その後、戦闘中止と同時に後方へ運ばれた同軍曹は、腹部貫通銃創が奇蹟的に腸を外れ、軍医も生命に異常なしと宣言した。隊長はじめ本部の一同は、軍曹並に小川部隊のめでたき武運のために盃をあげた。

     大熊部隊長の巡視

 翌日は、大熊部隊長が○○からこの地区の巡視に来るといふので、本部一同とともに私も鎮江まで迎へに出る。
 警備隊専属の○○船で揚子江を横ぎり、その船でまた大熊部隊長の一行
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