、日本軍が来たら逃げるといふことは、どこか怪しいところがあるからだ。かうして捕へられてもしかたがないではないか」
 婆さんはそれに対して、返す言葉はないといふ風に、たゞ「どうか命だけは助けてやつてくれ」を繰返すばかりだ。部隊長は更にその男に向ひ、
「お前にはこのお祖母さんの心配がわかるか? 日本の兵隊は、深い親心に免じて、お前のやうな間違つたことをした人間でも赦すこともあるのだ。ともかく今度だけは、お前のからだをこのお祖母さんに預ける。こんなにお前を可愛がつてゐる年寄を決して粗末にしてはならんぞ。それから、日本軍のほんたうのところがわかつたうへは、お前こそ、第一に、日本軍のために尽さなければいかん。約束をしておくが、万一、支那兵がこの土地へはひつて来たら、すぐ日本軍の方へ知らせて来い」
 祖母の胸へ押しつけられて、その青年は、夢をみてゐるやうな眼つきをしながら、ふらふらとその場を立ち去つた。
「怪しい奴です。しかし、たいして危険な代物でもない。あれでいゝでせう」
 部隊長は、私の顔をみてさう呟いた。
 橋梁破壊作業は、日が暮れてもまだ終らない。私は同夜、桂班長と一緒に県長との招宴に出席
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