たそこへやつて来てゐるのである。
暇つぶしといふわけでもないが、私は、部隊長の許しを受けて、この老婆と、その孫と称する捕虜に少しばかり口を利いてみることにした。
通訳の支那人は、以前やはり捕虜となつて帰順した兵隊なのださうだが、どこで覚えた日本語か、それを訊いてはみなかつたけれど、相当地方訛りのひどい敬語ぬきのあつさりしたものであつた。
「お前の孫だといふのは、たしかにほんとだらうね」
「ほんたうだ」
「軍隊と関係はないといふが、そんなら、何の商売をしてゐたのだ?」
「家は元来呉服屋だつたのだが、あれの親の代に失敗して、今は薬屋をしてゐる。あの子は徐州の薬学校に通つてゐて、事変後、こゝへ帰つて来てゐたのだ」
婆さんの返事を待たず、そこへたかつて来てゐる村の連中が、やかましくそばから口を出す。
私は、それらの連中がどうしてさうお節介なのかと思ひ、やゝ茫然としたが、もう一人の通訳にその捕虜をこゝへ連れて来るやうに頼んだ。
孫の姿をそこにみて、婆さんは取縋るやうに片手でかばひながら、再び私の方に向つて手を合せ、ぺこぺこと頭を下げた。
「お前に訊くが、どうしてクリークのなかなぞへ隠れ
前へ
次へ
全159ページ中91ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング