長は自ら群集の前に立つた。
 たつた今、あの凄じい勢ひで中国軍を蹴ちらした日軍の総大将は、そこへ姿を現はしたゞけで十分の睨みが利くわけであるが、そのうへ、噛んで含めるやうな平易な話し方で、日本軍がなんのために此処へ来たかを説明し、再び支那軍を寄せつけないために、附近の橋をみんな毀して行くから、いかにも不自由であらうが、当分の間、勝手にその橋を修復してはならぬと説ききかせ、最後に、この部落からは大分逃げたものがゐるやうだが、いつたい、どうしてお前たち兵隊でないものまでが逃げるのか、と問ひを発した。すると、群集の一人が答へた。
「これまでわれわれは、日本軍が攻めて来たら住民はみんな殺されると聞いてゐた。しかし、近頃、楊州から来たものゝ話に、決してそんなことはない、楊州にゐる日本の兵隊は実に立派な兵隊で、中国の良民に対してはどこまでも親切だとのことで、自分は安心してゐた。さういふことを知らないものがみんな先を争つて逃げたのだ」
 時にこの答へはどういふ風にでもとれるが、それを云ふ当人がわりに朴訥な印象を与へたゝめに、小川部隊長は「うん、さうか」と大きく肯首き、部下をほめられた隊長の満悦をかく
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