くとも今こゝにゐる日本の兵隊は、罪のない住民の家を焼き払ふやうなことはないのだ。多分、支那軍が弾薬庫にでも使つてゐて、逃げる時に火をつけて行つたのだらう」
隊長のその言葉は老婆の耳へははひらない。手ばなしで、それこそ子供のやうに、涙を流して泣き喚くばかりである。
「こつちの砲弾はこのへんに落ちるわけはないし、いつたいどこの家だ?」
住民の宣撫といふことに心をくだいてゐる隊長は、かういふ訴へを聞き流しにできぬとみえ、その燃えつゝある家の前に立ち寄つて、中をあらためさせた。
「敵の大隊本部にでもなつてゐたのかな」
さういふ目的に使用された家屋は、将来のために焼きすてろといふ秘密命令でもでゝゐるのか?
骨組だけが残つて、内部はまつたく形をとゞめぬくらゐ丸焼けである。ポンとなにかの破裂する音がした。
「危いぞ。気をつけろ」
誰かゞ注意した。中にはひつて行つた兵隊が靴を真つ黒にして出て来る。臭い臭いといふ顔をし、なんにもないと首を振つてみせた。
「それぢや、災難として、いくらか婆さんに見舞をやつとけ」
と、隊長は、主計に命じてゐた。
本部の休憩所がきまり、昼食の支度である。
「あな
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