敵はこの橋梁を破壊する暇がなく、その代り最後までこゝで抵抗を続けたのである。
 私たちがこの部落にさしかゝつた時は、味方の砲弾が時々頭上を超えて飛ぶ唸りが聞えるだけであつた。
 橋の上から左の方を見ると、クリークの幅がぐつと広まり、湖のやうになつてゐた。地図をみると、やはりそれは愛菱湖といふ名がついてをり、例の邵伯湖の一部なのである。
 狭い通りの両側は、何れも小さな田舎町の店であるが、もちろん戸を固く鎖した家が多く、たまにひよつこり顔を出す男などがあると、こつちがギヨッとするくらゐである。
 人家か疎らになり、乾田がまた続く。路ばたに一人の若い男がその父親らしい老人を背負つたまゝ腰をおろして休んでゐる、休んでゐるといふよりもへたばつてゐる恰好である。恐らくみなと一緒に逃げるつもりで此処までやつて来たのだけれども、もう脚がつゞかぬといふわけなのであらう。
 さういへば、私も可なり疲れてゐる。もうどれくらゐ歩けばいゝのかと思つてゐると、向うから伝令がやつて来て、部隊本部はすぐに喬野へ引上げて来るから、そこで待つてゐるやうにとのことであつた。
 空が美しく晴れて、野の花がそここゝに咲
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