。服は便衣であるが、帽子は正規兵の青天白日の徽章をつけたものである。
支那軍は味方の死体を運ぶ暇がない時でも、その銃器だけは必ず取りあげて行く。こつちも敵の死体の身につけた弾薬はそのまゝにはしておかない。背負袋にはまだ相当の弾薬が残つてゐる。おまけに、「如意香」といふ化粧クリームの小罎が一つころがり出たのには、わが兵隊諸君も唖然として顔を見合はせた。
その時、右手にあたつて、高く煙のあがるのが見えた。右翼隊が敵の陣地を占領したものと判断し、それなら、これをまつすぐに行くと、敗走して来る敵にぶつかるなと、うろ覚えの地図を頭に浮べてみたが、なんとも見当がつかぬ。まゝよといふわけで、砲兵隊の敷設した地上の電線を伝ひ、部落のなかを抜けて行つた。こゝは流石に敵陣地の内部だけに、住民の動揺は甚だしかつたものとみえ、戸毎に荷物を外へ運び出して逃げ支度をしてゐる。恐らくからだゞけで逃げたものが大部分なのであらう。積みあげた家財道具の上に子供を坐らせ、その下にぼんやり蹲つてゐる老婆もあつた。道ばたの家を一軒々々のぞいてみる。逃げおくれた、或は逃げてもしかたがないと思つてゐるらしいいくらかの家族が暗い
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