と羞みを交へた調子で告げた。「お砂糖だ」の意味であらう。すると、それをみてゐた別の女が自分の子供にもやつてくれと傍らの少年を頤で指す。今井君は、まだあつたか知らと云ひながら雑嚢を探つたがもう一つも残つてゐない。首を振つてみせると、母親と子供は恨めしさうに後ずさりをした。
 急にまた銃声が盛んになりだした。しかしそれはもう可なり遠くであつた。喬野の攻撃がはじまつたなと、私たちは本部の後を追ふことにし、クリークの渡し場の方へ歩いて行つた。そこに一軒の茶店がある。老人が私の姿をみかけると、奥から盆に茶をのせて持つて来た。そして、同じ土瓶から別の茶碗に注いだお茶を自分で先づ一口のみ、毒見をしてみせるのである。心得たものだと思ひ、私は、ふんふんとたゞうなづいて、船のあるところへ降りて行つた。両岸へ綱を渡し、それを手繰るやうにして船を滑らせて行く、あの式である。向う岸へ着くと、そこに掘つてある散兵壕のなかに、敵兵の死体がひとつ、俯伏せになつてゐた。頭を奇麗にチックで分け、色の生白い、インテリ風の兵士であつたが、額を射たれ、片手で傷口を押へたものらしく、左手にべつとり血がついてゐる。帽子が落ちてゐる
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